法人成り後の経営セーフティ共済は解約or引継ぎ?3か月以内にすべき手続きを徹底解説

「法人成りしたら、経営セーフティ共済はどうなるの?」

法人化すると、税務や登記、銀行手続きなどやるべきことが山積みで、経営セーフティ共済の手続きは後回しになりがちですよね。

ただし、もし適切な手続きをせずに放置すると、掛金が無駄になったり、共済のメリットを受けられなくなったりする可能性があります。

特に、納付期間が短い方は掛け捨てになることがあるため、注意が必要です。

本記事では、法人成り後の経営セーフティ共済の選択肢や引継ぎをする際の注意点、手続き方法などをくわしく解説 します。

目次

法人成り後の経営セーフティ共済は「解約」か「引継ぎ」

個人事業主が法人化(法人成り)した場合、加入している経営セーフティ共済は以下のどちらかを選択することになります。

  • 解約:契約を終了して解約手当金を受け取る
  • 引継ぎ:継続的な保障を受ける

それぞれ解説します。

解約:契約を終了して解約手当金を受け取る

経営セーフティ共済を解約すると、納付期間に応じて以下の解約手当金が支払われます。

【解約手当金の支給率(事業をすべて法人化した場合)】

納付期間支給率
1~11ヵ月0%(掛け捨て)
12~23ヵ月85%
24~29ヵ月90%
30~35ヵ月95%
36ヵ月以上100%

出典:共済契約の解約 | 経営セーフティ共済

注意点は以下の3つです。

  • 納付期間が12ヵ月未満の場合、解約手当金は支給されず掛け捨てとなる
  • 36ヵ月未満で解約すると元本割れする可能性がある
  • 解約手当金は個人事業主の事業所得として課税対象となる

たとえば、急に利益が増えた場合の節税対策として、経営セーフティ共済への加入と法人成りを同時に検討することがあります。しかし、短期間で経営セーフティ共済を解約すると損をする可能性もあるため、解約の判断は慎重におこないましょう。

なお、事業の一部だけを法人化し個人事業を継続する場合は、解約せずに個人事業のまま経営セーフティ共済を継続することも可能です。

引継ぎ:継続的な保障を受ける

法人化した場合、経営セーフティ共済を法人へ引き継ぐことも可能です。

通常、新しく設立した法人が経営セーフティ共済に加入するには、1年以上の事業実績が必要です。しかし、引き継ぎの場合は個人事業主としての加入期間もそのまま引き継ぐため、法人設立直後でも経営セーフティ共済の加入が可能になります。

引継ぎのメリットは、解約せずに保障を継続でき、法人の経費として掛け金を計上できる点です。

経営セーフティ共済「引き継ぎ」3つの注意点

経営セーフティ共済を個人から法人へ引き継ぐ際は以下の3つに注意が必要です。

  • 法人成り後3か月以内に手続きをする
  • 法人成り後も加入条件を満たすことが必要
  • 個人時代の義務も引き継ぐ

順番に解説します。

法人成り後3ヵ月以内に手続きをする

経営セーフティ共済の引き継ぎを行うには、法人化してから 3か月以内に、登録取扱機関を通じて中小機構へ申請する必要があります。

もし3か月を過ぎた場合は、遅延理由書の提出が必要となります。さらに、契約者同士の引継ぎの場合、1年半以上経過すると審査が必要になり、2年以上経過した場合は引き継ぎができません。

必ず3ヵ月以内に手続きをしましょう。

引継ぎの手続きについては、「経営セーフティ共済の引き継ぎ手続き【3ステップ】」で詳しく解説します。

法人成り後も加入条件を満たすことが必要

引き継ぎをおこなうには、法人化後も経営セーフティ共済の加入条件を満たしていることが必要です。

例えば、以下の法人は加入できません。

  • 医療法人
  • 農事組合法人
  • NPO法人
  • 外国法人
  • 森林組合・農業協同組合 など

また、株式会社や合同会社などが加入するには、以下の いずれかの条件 を満たす必要があります。

業種資本金の額または出資の総額常時使用する従業員数
製造業、建設業、運輸業など3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
小売業5,000万円以下50人以下
ゴム製品製造業(一部除く)3億円以下900人以下
ソフトウェア業
情報処理サービス業
3億円以下300人以下
旅館業5,000万円以下200人以下

出典:経営セーフティ共済の加入資格 | 経営セーフティ共済

なお、通常新しく設立した法人が経営セーフティ共済に加入するには、1年以上の事業実績が必要です。しかし、引き継ぎの場合は個人事業主の期間も含まれます。このため、法人成り直後でも加入が可能です。

個人事業主の義務も引き継ぐ

経営セーフティ共済(倒産防止共済)を法人成り後に引き継ぐ場合、個人事業主時代に負っていた義務もそのまま法人へ引き継がれます。具体的には、以下の3つの義務です。

  • 掛金の支払い義務  
  • 一時貸付金の返済義務  
  • 違約金の支払い義務 

順番に解説します。

掛金の支払い義務  

法人化後も、これまで通り掛金の支払いを継続する必要があります。  

法人化後に掛金を変更したい場合は、「掛金月額変更申込書」を提出しましょう。

毎月5,000円~20万円(5,000円単位)の範囲で掛金を変更できます。

詳しい手続き方法は、「掛金月額を増額したい | 経営セーフティ共済」「掛金月額変更(減額) | 経営セーフティ共済」をご確認ください。

一時貸付金の返済義務  

経営セーフティ共済には、無担保・保証人なしで資金を借り入れできる一時貸付金制度があります。  

個人事業主時代に一時貸付金を利用していた場合、法人化後もその借入金の返済義務を引き継ぎます。  

たとえば、個人事業主のときに50万円を借入していた場合、法人成り後も50万円の返済が必要です。  

違約金の支払い義務  

一時貸付金の借入期間は1年間で、借入期間の最終支払期日には元金を一括返済する必要があります。  もし返済期日を過ぎると、年14.6%の違約金(延滞利息)が発生します。

個人事業主時代に一時貸付金を利用していた場合は、違約金の支払い義務も法人へと引き継がれます

返済義務や違約金の支払い義務は個人から法人へ引き継がれますので、返済スケジュールには十分注意しましょう。

経営セーフティ共済の引き継ぎ手続き【3ステップ】

経営セーフティ共済の引き継ぎは、次の3つのステップで進めます

  • 必要書類の準備
  • 申出書の記入
  • 書類の提出

それぞれの手順について詳しく解説します。

STEP

必要書類の準備

引き継ぎに必要な主な書類は、以下の通りです。

必要書類入手場所入手方法手数料の目安
個人の印鑑証明書市区町村窓口、郵送、
コンビニ
100~300円程度(市区町村、交付方法によって異なる)
法人の印鑑証明書法務局窓口、郵送、
オンライン
390~450円(交付方法によって異なる)
法人の商業登記簿謄本または履歴事項全部証明書法務局窓口、郵送、
オンライン
480円~600円(交付方法によって異なる)
共済契約締結証書ご自宅
契約承継申出書登録取扱機関
中小企業基盤整備機構
窓口、電話、
オンライン
掛金預金口座振替申出書

出典:事業の全部譲渡(法人成り) | 経営セーフティ共済

以下から詳しく解説します。

個人の印鑑証明書(発行から3ヵ月以内)

個人の印鑑証明書は、マイナンバーカードがあればコンビニで発行できます。窓口よりも手数料が安く、近くのコンビニで取得できるため便利です。

ただし、市区町村によって対応状況が異なるため事前に確認しましょう。利用できる市区町村や詳しい手順は「コンビニエンスストア等における証明書等の自動交付【コンビニ交付】」をご覧ください。

法人の印鑑証明書・商業登記簿謄本または履歴事項全部証明書(発行から3ヵ月以内)

法人の印鑑証明書や商業登記簿謄本などは、法務局で取得できます。

オンライン申請も可能です。法人代表者のマイナンバーカードを使えば、法務局のウェブサイトから簡単に申請できます。

詳しい利用方法は「会社・法人代表者の印鑑証明書を取得したい方|法務局」をご覧ください。

共済に関する書類

  • 契約承継申出書(法人へ契約を引き継ぐための申請書)
  • 掛金預金口座振替申出書(掛金の支払い口座を法人名義に変更するための申請書)

契約承継申出書や掛金預金口座振替申出書は、登録取扱機関または中小企業基盤整備機構の窓口、電話、オンラインで入手できます。

ご自身の登録取扱機関は、共済契約締結証書でご確認ください。

登録取扱機関の例
  • 銀行
  • 信用金庫
  • 商工会
  • 商工会議所 など

また、中小企業基盤整備機構のホームページからも書類の請求が可能です。

STEP

申出書の記入

申出書には不備がないよう、記入例を参考にしながら正確に記入しましょう。

申出書記入例
契約承継申出書契約承継申出書
掛金預金口座振替申出書掛金預金口座振替申出書(変更用)
STEP

書類の提出

必要書類と申出書がそろったら、登録取扱機関に提出します。

手続きが完了すると、中小企業基盤整備機構から法人名義の新しい「共済契約締結証書」が郵送されるため、大切に保管してください。

経営セーフティ共済引き継ぎ時の仕訳処理

経営セーフティ共済を法人に引き継ぐ際の仕訳処理は、納付期間によって異なります。ポイントは、解約返戻金が発生するかどうかです。以下の2つのケースに分けて解説します。

  • 納付月数が12ヵ月未満の場合
  • 納付月数が12ヵ月以上の場合

納付月数が12ヵ月未満の場合

解約返戻金が発生しないため、個人事業主・法人のどちらも仕訳処理は必要ありません

納付月数が12ヵ月以上の場合

納付期間が12ヵ月以上になると、解約返戻金が発生するため、個人事業主と法人それぞれで適切な処理が必要になります。

  • 個人事業主は、解約返戻金相当額を「雑収入」として計上します。
  • 法人は、解約返戻金相当額を「保険積立金(資産)」として計上します。
  • 解約返戻金相当額は、法人から個人へ支払います。

解約返戻金が100万円の場合の具体的な仕訳を確認しましょう。

個人事業主の仕訳

借方貸方
現金預金100万円雑収入100万円

法人の仕訳

借方貸方
保険積立金100万円現金預金100万円

このように、納付月数によって仕訳の有無や処理内容が異なるため、適切な方法で対応しましょう。

まとめ|法人成り後も経営セーフティ共済は引継ぎ可能

法人成り後の経営セーフティ共済は、「解約」か「引継ぎ」のどちらかを選択する必要があります。

解約すると解約手当金を受け取り、個人の収入として課税対象です。一方、引継ぎを選択すれば継続的な保障を受けられます。

引継ぎ時は以下の3つに注意が必要です。

  • 法人成り後3か月以内に手続きを行うこと
  • 法人成り後も加入条件を満たすこと
  • 個人時代の義務も引き継ぐこと

法人成り後は適切な手続きをし、掛け金が無駄にならないようにしましょう。

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この記事を書いた人

新村優子のアバター 新村優子 執筆者

当事務所のホームページを担当している税理士です。
分かりやすく、丁寧な情報発信を心がけています!
2人の男の子の母として、育児と仕事の両立に奮闘中。

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