奨学金返還支援(代理返還)制度とは?メリットや注意点を徹底解説

「優秀な人材を確保するのが難しい…。」中小企業の経営者なら、一度はこの課題に直面したことがあるのではないでしょうか。そんな課題を解決する方法の一つとして、今注目されているのが「奨学金返還支援(代理返還)制度」です。

この制度を活用すれば、奨学金の返済に悩む若手社員をサポートできるだけでなく、所得税の非課税や社会保険料の削減などのメリットも享受できます。

この記事では、「奨学金返還支援(代理返還)制度」の概要やメリット、導入手順を詳しく解説します。

中小企業でも十分に導入可能な制度ですが、導入には注意点もありますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

奨学金返還支援(代理返還)制度とは?

奨学金返還支援制度とは、従業員が学生時代に借りた奨学金の返済を企業がサポートする仕組みです。企業が従業員の奨学金返済の一部、もしくは全額を肩代わりすることで、従業員の経済的負担を軽減できます。

もともと奨学金返還支援制度は、企業が従業員に奨学金返済分を手当として支給するものでしたが、2021年4月から、日本学生支援機構(JASSO)に企業が直接返済を行う「代理返還制度」が開始されました。

この制度を利用することで、従業員の返済負担を減らすだけでなく、企業側にもメリットがあります。

奨学金返還支援(代理返還)制度「6つ」のメリット

奨学金返還支援(代理返還)制度を導入するメリットは以下の6つです。

  • 所得税の非課税
  • 社会保険料不要
  • 会社の経費として計上可能
  • 賃上げ税制の対象
  • 採用や定着率向上
  • 補助金が受けられる可能性あり

順番に解説します。

所得税の非課税

企業が従業員の奨学金を直接返済する場合、その返済額は従業員の所得として扱われず、所得税や住民税がかかりません。

通常、企業が従業員に返済のための金額を手当として支払う場合、給与として課税対象になり、所得税や住民税がかかります。

しかし、奨学金返還支援(代理返還)制度では、企業が直接日本学生支援機構に返済金を送金するため、その支援金は給与とみなされません。結果として、所得税や住民税が課されず、従業員の手取り額が増えます。

例えば、月に3万円の奨学金を企業が負担する場合、手当として支給すると3万円から所得税と住民税が4,500円※引かれます。※所得税率を5%として計算

しかし、企業が直接返済すると3万円分が税金の対象外となり、結果的に手元に残る金額が増えます。

社会保険料不要

奨学金返還支援(代理返還)制度を利用することで、企業も従業員もその返済額に対して社会保険料を支払う必要がなく、コスト削減につながります。

奨学金の返済を企業が直接支援する場合、その支援額は従業員の給与として扱われないため、社会保険料の対象にはなりません。通常、給与の約15%が社会保険料として徴収されますが、この制度を活用することで、その分の支払いを避けられます。

たとえば、従業員に毎月3万円の手当を支給すると、4,500円の社会保険料がかかります。

しかし、奨学金返還支援(代理返還)制度を利用すれば、支援金は給与ではないため、この3万円には社会保険料が発生しません。社会保険料の半分は、企業負担のため、企業の負担も減らせます。

会社の経費として計上可能

奨学金返還支援制度を利用することで、企業が従業員の奨学金返済を肩代わりした金額を経費として計上でき、法人税の負担を減らすことが可能です。

奨学金の代理返済は企業の福利厚生の一環として扱われ、支援した金額が経費として認められるためです。これにより、会社の課税所得を減らし、法人税の負担を軽減することができます。

例えば、企業が従業員の奨学金返済として年間12万円を支援した場合、法人税率が30%だと仮定すると、36,000円の法人税が削減されます。これは企業にとって大きな節税効果をもたらします。

賃上げ税制の対象

会社が負担する支援金額は、会社では従業員の給与の一部として扱われるため、一定の条件を満たせば「賃上げ促進税制」の対象になります。

賃上げ促進税制とは、従業員の給与等を一定以上引き上げた企業に対して、法人税を減額する制度です。

中小企業の場合、雇用者給与等支給額が前年比1.5%以上増加していると、賃上げ額の15%の税額控除が可能なうえ、控除しきれなかった金額を5年間繰り越すことが可能です。さらに、前年比2.5%以上増加していると、賃上げ額の30%の税額控除ができます。

たとえば、前年の給与100万円、今年の給与100万円+奨学金返還支援額12万円の場合、3万6,000円法人税額を減らすことができます。

参考:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック

採用や定着率向上

奨学金返還支援制度を導入することで、企業は優秀な人材を確保しやすくなり、離職率の低下にもつながります。

制度を導入すると、日本学生支援機構のウェブサイトに社名や支援内容を掲載できます。これにより、奨学金返済をサポートしてくれる企業を探している人材にアピールしやすくなり、採用の成功率が高まります。また、既存の従業員に対しても、奨学金返済の負担が軽減されることで心理的な負担が減り、仕事に集中できる環境を整えることができるため、離職率の低下が期待できます。

奨学金返還支援制度は、企業が優秀な若手人材を確保しつつ、既存社員の定着率を向上させる有効な施策です。

補助金が受けられる可能性あり

企業が奨学金返還支援制度を導入すると、従業員や企業に対して県や市から補助金が支給される可能性があります。これにより、企業の負担も減らすことができるのです。

たとえば、兵庫県内の中小企業がこの制度を導入した場合、従業員1人あたり従業員・企業の双方に年間最大6万円づつの補助が支給されます。補助額は、条件に応じて最大17年まで受け取れるため、長期間にわたって企業と従業員の双方が恩恵を受けられる仕組みです。

従業員の年間返済額が18万円で企業が12万円を負担した場合、県からは企業と従業員に合わせて最大12万円の補助が行われ、従業員負担はゼロ、企業の実質負担は6万円に軽減されます。

さらに、神戸市に本社がある企業には、県の補助に加えて、神戸市からも最大5年間、追加補助が支給されます。神戸市からは、県の補助実施後の企業負担や従業員負担の一部について、年間最大25万円までの追加補助が可能です。これにより、神戸市内の企業ではさらに大幅なコスト削減が期待でき、若手人材の採用や定着を促進できます。

詳しい補助金の内容は「兵庫型奨学金返済支援制度」、および「中小企業奨学金返済支援制度」をご確認ください。

また、各都道府県や市区町村で支給内容が異なるため、「奨学金返還支援補助」などのキーワードで各公式サイトをチェックすることをおすすめします。

奨学金返還支援(代理返還)制度「2つ」の注意点

奨学金返還支援制度を導入する際は、以下の2つに注意が必要です。

  • 対象外の従業員との不公平感
  • 役員への返済支援は損金算入の対象外

順番に解説します。

対象外の従業員との不公平感

奨学金のない社員に直接的な不利益はありませんが、「自分は損をしている」と感じるかもしれません。特に、支援対象者のパフォーマンスが低い場合、不公平感が高まり、職場の雰囲気やチームワークに影響を及ぼす恐れも出てきます。

ただし、家族手当や住宅手当といった他の福利厚生にも同様の不公平感が生じることがあり、奨学金返還支援制度だけが特別というわけではありません。

そのため、制度導入時には目的や価値を社員にしっかりと説明し、制度の意義を共有することが重要です。

役員への返済支援は損金算入の対象外

税法では、役員給与や特定の支払いに制限があり、役員への奨学金返済支援は福利厚生として認められず、損金には算入できません。役員給与は一般社員と異なるため、経費に計上できないのです。

会社が役員に奨学金返済支援を行った場合、その支援額は経費として処理できないだけでなく、役員の所得として課税される可能性もあります。制度の対象者を決定する際は、役員への支援は経費にならない点を考慮しましょう。

奨学金返還支援(代理返還)制度導入4ステップ

ここからは、奨学金返還支援制度をスムーズに導入するための具体的な手順を、以下の4ステップで説明します。

  1. 支援内容の検討
  2. 社内規程の作成
  3. 日本学生支援機構へ申請
  4. 送金方法を設定する

順番に解説します。

支援内容の検討

制度導入前に従業員の奨学金利用状況を確認し、適切な支援内容を検討します。

支援対象者の条件(雇用形態や勤続年数)、支援額、支援期間などを会社の実情に合わせて設計しましょう。

社内規程の作成

奨学金返還支援(代理返還)制度の社内規程を作成します。規定する主な項目は、以下のとおりです。

スクロールできます
項目内容
支援対象者正社員、契約社員、入社後の年数制限など
支援金額月々の上限や支援割合(例:月3万円、勤続5年以上で全額支援)
対象となる奨学金日本学生支援機構(JASSO)や国内公的奨学金など
申請手続き必要書類の提出期限(例:毎年4月末まで)
支援期間例:最長10年間や奨学金完済まで、支援開始は申請月の翌月からなど
欠勤・休職時の対応例:育児・傷病休職中は支援を一時停止し、復職後に再開など

必要に応じて、支援を受けるための具体的な条件(例:「勤続3年で奨学金の50%支援」など)を決めることもできます。

以下は、規定の作成例です。

参照:沖縄県「奨学金返還支援制度導入の規則文言例

大阪市宇都宮市などの規定例も参考にし、必要に応じて調整・追加しましょう。

日本学生支援機構(JASSO)への申請

支援内容が決まったら、平日9:00〜17:00にJASSOへ電話(03-6743-6029)またはFAX(03-6743-6679)で申請を行います。

申請が承認されると、JASSOより企業用のIDとパスワードが郵送され、制度の利用が可能になります。承認にはおおよそ2週間ほどかかるため、余裕を持って申請を行いましょう。

送金方法の設定

支援金の送金方法は以下の2つから選べます。

  • 口座振替:企業の口座から自動引き落としで支払う方法
  • 払込取扱票:企業が指定の用紙を使って支払いを行う方法

送金方法は、企業専用のオンラインページで設定可能です。

まとめ|奨学金返還支援(代理返還)制度で競争力を高めよう

奨学金返還支援(代理返還)制度は、若手社員の負担を軽減し、働きやすい環境を整えるための有力な施策です。

制度を導入することで、所得税の非課税や社会保険料の負担軽減といった税制面でのメリットを活かしながら、会社の経費として計上して税負担を軽減できます。

ただし、対象外の従業員との不公平感や役員支援が制限される点には注意が必要です。

中小企業でも導入可能な「奨学金返還支援(代理返還)制度」を活用し、より魅力的な職場づくりを目指してみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

神戸市兵庫区の税理士事務所

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